開発ストーリー
ストーリー2 〜 びわ葉混合発酵茶の誕生 〜
1. 製造方法の確立と成分の特定
茶葉とびわの葉。この二つの植物の融合を考えた宮田さん。
それには茶の摘採時期や、製造時の温度・時間、配合割合などいくつもの検証が必要であり、何度も試作するなかで、香味に優れ渋み苦味が少なく美味しく飲めるお茶を作ることに成功した。
今までの健康茶は出来上がった茶葉や抽出物をブレンドした商品がほとんどだが、このお茶は製造過程で茶葉に異なる植物を混ぜる…という点が従来の製法と異なっている。
ここに「世界初」という冠が付き、国内はもとより中国やアメリカなど国内外で複数の特許を取得することとなる。
しかし、ただの美味しいお茶では革新的な開発にはならない。
このお茶は従来のお茶づくりの常識を破り、人々や地域にとっても貢献できるお茶でなければならない。
そう考えるとお茶の持つ健康成分を十分に活かすことであると考えた。
■機能性成分の特定
まず、機能性成分についてはポリフェノール研究の第一人者である長崎大学の田中隆教授が、びわ葉混合発酵茶が持つ成分特性について研究を行った。
混合発酵茶の原料の一つであるビワ葉には,プロシアニジン類やカテキンの酸化を促進するクロロゲン酸が含まれている。
原料の三番茶葉は,カテキン類(EGC,EC,EGCg,ECg)を主成分としている。
これらを混合して製造された混合発酵茶葉では,三番茶葉に含まれるカテキン類の含量が減少し,それに伴ってカテキンの酸化重合体であるテアフラビン類(テアフラビン,テアフラビン3-O- ガレート,テアフラビン3’-O- ガレート,テアフラビン3,3’- ジ-O- ガレート),テアシネンシン類(テアシネンシンA,テアシネンシンB),テアルビジン類(カテキンの高分子重合体などの紅茶ポリフェノールが新たな成分として検出された。
これら紅茶ポリフェノールは,ビワ葉が強いポリフェノール酸化酵素活性を有することに加え,ビワ葉に含まれるクロロゲン酸がカテキンの酸化重合を促進することにより生成したものと推察される。
田中教授曰くびわ葉混合発酵茶には緑茶由来のカテキン、紅茶由来のポリフェノールとも違う分子量の成分があることを突き詰めた
他のお茶にはないこの新規成分を「カテキン重合ポリフェノール」と呼び、この成分が糖の吸収阻害や脂肪の吸収抑制などの効果があることはこれまでの基礎実験の中で分かりつつあった。
そこで長崎県立大学の田中一成教授の下で2型糖尿病ラットを用いた動物試験を行った結果、驚くべきデータが出たのだ。
びわ葉混合発酵茶をラットに投与すると血糖値が全く上がらなかったのだ。
これはもしかしたらすごい効果かもしれない・・・。
この結果に関する科学的な効能メカニズムを解明するために県を超えて九州大学も巻き込むこととなる。
2. 効能メカニズム解明とヒト臨床試験
■効能メカニズムの解明
宮田さんとともに当初より開発に携わっている長崎県工業技術センターの玉屋圭さん。
玉屋さんは九州大学農学部の出身で混合発酵茶の共同研究に参加することとなる農学博士 松井利郎教授の研究室第1期生だった。
松井教授は食品機能、特に生活習慣病予防・改善を目的とした生体恒常性維持に関わる食品成分の検索と作用機作の解明の研究を行っている。
このメカニズムを解明することができるのは松井先生しかいない。そう思った玉屋さんは早速九州大学の松井先生に研究の取組みと動物実験のデータを持って相談にいったところ、これは面白い!となり、松井教授自らこの研究に参画させてほしいとの要望もあったほどだ。
そこから九州大学の松井先生にも研究プロジェクトに参画してもらい、メカニズム作用について究明することとなる。
早速ここでも成果があがった。
まず血糖上昇抑制に関するその作用メカニズムについては,混合発酵茶葉の製造でカテキンの酸化重合により生成したテアフラビン類,テアシネンシン類およびカテキン重合ポリフェノールが小腸でのグルコシダーゼの活性を阻害することにより発現することが分かった。
さらに、血清および肝臓トリグリセリド濃度低下作用,体脂肪低下作用を有している.これらは,混合発酵茶葉に含まれる紅茶ポリフェノールおよびカテキンが膵リパーゼの活性を阻害することにより,小腸からの脂肪の吸収を抑制あるいは遅延し、結果として糞中への脂肪の排泄が促進されることによる。
なお肝臓では脂肪合成が抑制され,褐色脂肪組織においては,おそらくカテキン類により脂肪の分解が促進される。
このようなメカニズムによって、体脂肪減少や中性脂肪濃度低下効果が発揮すると推測された。
ここまでメカニズムがはっきりすれば、最後の難関であるヒトでの実際の効果検証だ。
■ヒトでの臨床試験
これまでに混合発酵茶が脂質および糖代謝改善などの機能性を発揮する成分と作用機序の概要が明らかになったが、ヒトの健康に寄与することを目的として製造される機能性食品においては、実際にヒトで効果が発現することが重要である。
そこで立ち上がったのが長崎県立大学の田中一成教授だ。
田中教授は栄養化学、脂質栄養学を専門分野とする農学博士でこれまで長崎県内の地域資源を活用した農水産物の機能性の研究、動物、ヒトでの臨床実験を多く経験している先生だ。
混合発酵茶でのヒト臨床試験については田中教授に協力いただくこととなった。
当時は臨床試験の実施体制はなく、外部機関に委託する資金もない。
被験者集めが一番の難問であった。
この研究は官学から始まった研究だったため、長崎県の県庁職員(約60名)の協力を得て臨床試験の被験者になってもらったのだ。
何とか試験実施に漕ぎつけ、田中教授が臨床試験の実験計画を組み、食後の血糖値や体脂肪、中性脂肪についての試験を実施することになった。
結果は顕著に出た。
混合発酵茶を摂取させた群と混合発酵茶が入っていないプラセボ試料を摂取した群ではそれぞれの効果についてしっかりと有意差が出たのだ。
3. 大手企業との共同研究と生産組合の発足
これまでに得た研究成果は数々の学会などで発表され一目、業界内で注目を浴びることとなった。
この研究成果を事業化しようと当時の長崎県知事(金子知事)もこの取組みをバックアップした。
2006年4月、金子知事より研究成果の記者発表という形で、メディアに発信されたのだ。
すると大手飲料メーカー、大手製薬メーカーなど複数社から県に問合せや共同研究の打診があり、その中から大手飲料メーカー某社とトクホ(特定用保健食品)の飲料化を目指し商品化に向けた共同研究も始まった。
それに先立ち県内での原料茶葉生産の体制構築のために、行政主導において県内の茶生産者に声を掛け、集まったのが36名の精鋭の生産農家たちでした。
2009年6月、混合発酵茶原料を生産する組織「ながさき高機能茶有限責任事業組合」が設立された。
茶業研究室から技術移転によって製造マニュアルを作り、茶葉及びびわ葉の調達体制を整えた。
特保の商品化に至るにも数年はかかる。
そこで県内の茶商たちも巻き込み、自身たちでティーバッグ商品の販売も開始した。
発売当初こそ売れたが、中々売り上げが上がらない日々が続いた。
そして、大きな期待を寄せていたトクホの商品化についても難航し、某企業との共同研究の契約が終了しトクホ商品化の道は閉ざされる事となった。
しかし、一度立ち上げた一大プロジェクト。そう簡単には終われない。